私が現在担当中の事件についてご紹介します。
平成25年、腰部脊柱管狭窄症による足のしびれ、歩行困難を改善するために受けた腰部脊柱管固定術を受けた患者さんが、出血性ショックで亡くなりました。
ご本人はもちろんご遺族も死亡する危険性のある手術だとは医師から説明を受けていなかったため、ご遺族は大変なショックを受け、深い悲しみに包まれました。医療機関が自主的に異常死として届け出たため、捜査機関の捜査が開始されました。ご遺族は早く担当医から何が起こったのか説明を受けたいと強く願っていましたが、医療機関の回答はカルテ等を警察が管理しており病院にはないため説明ができない、カルテが警察から戻ってきたら回答するというものでした。
ご遺族は皆温厚な方々であり、医療機関を信じて待ち続けました。
しかし、患者の死亡から1年経っても、2年経っても、医療機関からは何の連絡もありません。ご遺族は警察から「医療機関が患者に説明するために必要だというならば、カルテはいつでもお返しします」という話も聞き、医療機関に対して不信感を抱き始めました。患者の葬儀の際にも、医療機関からはお詫びの一言もありませんでした。
そこでご遺族らはやむなく、弁護士を依頼することにしました。
私が代理人弁護士として医療機関に遺族らへの説明を求めると、「死因がわからないので説明できない」との回答でした。
現在は死因・身元調査法が改正され、遺族に対して死亡原因が開示される道が開けたようですが、残念ながら本件の患者は新法移行前でしたので、ご遺族が死因を把握する道は閉ざされていました。
私は解剖担当医に連絡を取りましたが、捜査の秘密を理由に説明を断られました。
その後本件の担当検察官に説明を求めましたが、司法解剖の結果は開示されず、わずか3~4行程度の結果の読み上げだけでした。
その結果を医療機関に伝えると、鑑定書が入手できていないなら死因が不明瞭なままであり説明ができない、説明会の開催には応じられないとの回答でした。
家族の予期せぬ死を迎えた遺族が、担当医から説明を受けたいと思うのは至極当然の願いだと思います。
遺族が知りたいのは正確な死因だけではありません。家族がどのように死を迎えたのか、医療機関がどのような治療を施してくれたのか、担当医が家族の救命のためにどれだけ懸命に尽くしてくれたのか。
死因が不明であることを理由に、患者の予期せぬ死後担当医または医療機関が一切遺族に対して直接説明を行わないという対応は、どう考えても不適切極まりないとしか言いようがありません。
現在、再度医療機関に対して説明会の開催を要求しているところです。
医療機関の誠実な対応を願っています。
(医療問題弁護団HP班 武田 志穂)